長野の建築 1日目。小諸美術館へ。

結婚式に列席するために長野に行くことになったので、せっかくなので周辺の建築を見に行こうと計画を練っているとふと建築家の戸室太一さんから教えていただいた小諸美術館を思いだす。
長野県小諸市にある小山敬三画伯の作品を収蔵する美術館であり、村野藤吾氏の代表作でもある。小諸は結婚式が行われる軽井沢よりからも近いので、前乗りをして見に行くことに。

茨城から電車で上野に、それから新幹線で軽井沢へ。久しぶりの新幹線、乗り鉄の自分にとっては嬉しい移動の時間だ。
軽井沢につくと曇り空。少し肌寒い、避暑地に来たなと肌で感じる。前に来た時よりもアウトレットモールのせいか賑わっているように思える。
そこからしなの鉄道に乗って小諸駅へ。

駅から美術館への道の途中、有名な蕎麦屋さんで食事。変わりそばを頼んだが普通のもりそばにしておけば良かったと思う。
そして小諸美術館へ。

戸室太一さんのおすすめということもあり、否応なしに期待が膨らむ反面少し心配だった。それは自分自身モダニズム建築(この建築は違うが)に時たまある、なんというか古い屋根裏に行ったときのような独特の古い香りが苦手なのだ。それは長居できない理由にもなりえるので、ゆっくり訪れたい場合大きな障壁になる。

しかしそれは全くの杞憂に終わることに。

 

建物は千曲川を見下ろす丘陵地帯の上に立つ。これは画伯の要望であったらしい。小規模であるので小山敬三画伯の自邸(移築)を見ても1時間程度あれば満喫できる。

しかしその滞在時間以上に内部の連続性が生み出す空間の変化がすごい。エントランス・第一展示室及び休憩室の一部は村野藤吾氏の設計だが、第二展示室に関しては息子さんによる増築らしく、窓の考えた方と空間の広がり方が全く違う。(1975年築、その15年後に増築)

今回は村野藤吾氏の設計部分に関して。

美術館の入り口は庭園の奥にあり、斜面をそのまま活かしている建物である。エントランスは低く抑えられてなんとも素朴で落ち着いた空間で、そこからまた低く抑えられたい廊下を抜けた先に休憩スペースがあり、そこで受付をする。第一展示室はそのすぐ脇。その第一展示室以外は主な展示はない。

その展示室は斜面を活かした空間で天井中央部が大きくたわんだような設計になっている。その天井と入口から下りていくような斜面の床が空間に広がりと変化を与えている。また室内を移動していくと様々な部分に(壁のくぼみや屈曲部・壁に挟まれた場所に)窓が隠れており室内には柔らかい光が届いている。それは同時に作品に日光が当たらないようにできており、その変化がとても面白い。一からこの窓を考えつくかなと思案してみるが多分難しいだろう、でもここで出会えたので良かった。

様々な窓からの光・その光を運ぶ曲がった壁そしてそれを包むたわんだ天井がのびやかな空間を生み出し、画伯の骨太な作品を包み込んでいた。そして展示室の作品を見て回って振り返ると今まで移動してきた時の感覚と違う空間が広がっており、斜面という連続性の中にいろんな変化が存在している。それは光の変化や水平でない天井が生み出しているものだと思う。

シンプルな空間であっても壁・天井・窓の配置など本当に考えられていて画伯の作品と緻密に計算された作品が人に感動を与えるという考え方・気韻生動の考え方と呼応している、そんな印象。

館内では図面も見れるので、それを見ながら職員さんにいろいろとお話を伺う。みなさんすごく親切で良い方ばかり。増築前の名残や冷暖房に関する悩み(結露など)や窓と作品の事や画伯のお嬢様が現在の建築に対する要望など、職員さんでないとわからないお話聞く事ができた。窓からの日射・熱に関しての問題は増築された第二展示室の方が多いよう。形は似たような作り方をしているがちょっと美術館としてはまずいのではと疑問を抱く部分もあったのでやはりそうかと。

外観は木々に囲まれた穏やかな庭園の中に白い緩やかに曲がった壁と斜面から徐々に反り上がるような形をしている。また特徴的な窓が様々な場所にあるのでぐるりと見て回るのも面白い。またこんなところにガーゴイル?と思っていたら屋根に見えているのは庇のような部分で陸屋根のパラペットの上に乗せられているものだった。屋根のボリュームはなくしながらも、特徴的な外観と外壁の維持を目的にしているのだろうか。

 

木々の中に特徴的な外観。ガーゴイルが可愛いしえんじ色の屋根というか庇もキュート。

 

色なんな所に変わった窓。見ていて楽しい。

 

小さな建物だけど長文が書けるほどの美術館であることがすごい。そしてまず何にせよ画伯の作品が見事で、次は周りの景色などをゆっくり楽しみながら再訪してみたいと思う。その時は今の印象と違うものが感じられそう。そして写真でわからない建築の空間を実際に体験することの重要性を改めて感じさせてくれた建物でもあった。

帰路ではいろいろ空間について考えて頭に熱を帯びていた。